懸案の厚生労働省の社会保障審議会医療部会(部会長:永井良三・自治医科大学学長)は4月6日の会議で、2017年度から開始する新専門医制度について議論した。前回の同部会に続き、「延期ありきではないが、地域医療への影響についての懸念が払拭できない」といった意見が出たほか、日本専門医機構のガバナンスに問題があるとされ、サブスペシャルティの議論もなされていないなど、制度の根本に関わる問題の指摘も相次いだ。
厚労省は、医療部会の下に設置された「専門医養成の在り方に関する専門委員会」の議論を踏まえ、「延長ありきで進めてしまっては、できるものもできなくなってしまう。できる範囲内での調整をさせてもらっている」と、地域医療への影響についての懸念を払拭するため、都道府県に対し、関係者と連携し、検証、調整などを行うよう求める通知を出したことを説明。これに対して、制度の基盤となる機構のガバナンスを議論しなければ始まらないとし、「議論の順番が違う」「サブスペシャルティの在り方を決めていないのに、見切り発射するのは問題」などの意見も出た。そもそも実行は難しい。
新専門医制度をめぐっては、前回の2月の社保審医療部会で、医師の地域や診療科による偏在が生じるなど、地域医療への影響を懸念する声が相次ぎ、この3月に「専門医養成の在り方に関する専門委員会」が設置された経緯がある(新専門医制度、「調整の労は取る」と厚労省』を参照)。
まず口火切り、異議を唱えたのが、日本医師会副会長の中川俊男氏。「前回の医療部会で、多数の懸念が指摘された。根本的に見直し、日本専門医機構のガバナンスから見直すべきとの意見が多かったため、専門委員会を設置し、検討することになった」と指摘した。
しかし、厚労省が3月31日付で都道府県に対して出した通知は、2017年度からの開始を前提に、各都道府県に対し、地域医療の確保の点から関係者が必要な調整を行うよう内容であることから、「来年度からの実施ありきではないか」と問題視した。「延期ありきではないが、地域医療に影響する懸念を払拭できないなら、延期もやむを得ないと思っている。通知は医療部会の議論を無視している」(中川氏)。厚労省医政局医事課長の渡邊真俊氏は、研修プログラムの審査も進んでいる現状から、「延長ありきで進めてしまっては、できるものもできなくなってしまう。できる範囲内での調整をさせてもらっている」と説明。しかし、日本専門医機構や都道府県が取り組む対応策は、「検討」「調整」の段階であるため、中川氏は「今秋以降、専攻医の募集が始まる。このスケジュールで、本当に問題が解決できるのか。『できるものも、できなくなる』というのは全くおかしな発言」と語気を務めた。
日本医療法人協会会長の加納繁照氏も、大阪府では関係者が調整を行う協議の場はまだ設置されておらず、検討の遅れを指摘。全日本病院協会会長の西澤寛俊氏も、専門委員会に参加した立場から、「来年4月から開始するためのスケジュールに見える」とし、「議論の順序が逆。(日本専門医機構の)組織に問題がある。その組織で決まったことを前提に進めることは問題ではないか。より大きいのは、ガバナンスの在り方だが、(第1回の)専門委員会で全く議論されていなかった」と振り返った。全国知事会(奈良県知事)の荒井正吾氏からは、地域で関係者が協議する場を設けても、調整をするのは難しいとする声が上がった。「専門医の養成は、大学などで行われることが多いが、大学は協議の場に加わることが少なく、なかなか協力してもらえない。一言で言えば、『言うことを聞いてくれない』」(荒井氏)。
専門委員会の座長も務める永井部会長は、第1回の専門委員会は、まず実態を把握するために、関係者の説明を聞く目的だったと説明。その上で、「専門医を養成するのは、研修プログラムではなく、(それを基に研修を行う)地域。募集定員が研修希望者数の1.2倍を上回れば、(医師の偏在が進む可能性があり)大変なことになる。まず研修希望を聞き、専門医養成の枠組みを整理する必要がある」と述べ、医師の地域や診療科の偏在が進まない制度の在り方を検討する必要性を指摘。ガバナンスの在り方については、それと並行して議論していくとした。日本赤十字社医療センター第二産婦人科部長の木戸道子氏からは、新専門医制度は、新規に専門医を取得する医師だけでなく、既取得者の更新も対象であり、医師全体に関わってくる問題であるという理由から、「現在専門医を取得している人が、どの程度更新するのか、きちんとシュミレーションしてから検討するべき」との提案も出た。
これを受けて、日本内科学会を新研修医制度について説明会があった。しかし、パネラーのプレゼンは画餅であった。理想論は良いが、現場を見ずして机上の空論は、壁壁とした。新専門医制度のみで、医師の偏在を是正できるという盲信が大問題である。
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